エッセイ · 嗅覚アート

ラリー・バンバーグ(Larry Bamburg)。「TalctoTile」。

Larry Bamburg. TalctoTile.

石と、石けんでつくったその複製。

Larry Bamburg「TalctoTile」:陶製タイル、獣脂石けん、原石のタルクを積み上げた塔

Larry Bamburg「TalctoTileTower, from a unstable foundation」、2016年 · Art in America



始まりの石

タルクは多くの日用品に含まれる石だ。ベビーパウダー、化粧品、紙、塗料。けれど、その全体の姿を見た人はほとんどいない。私たちがタルクを知るのは、形をなくした白く細かな粉に挽かれてからだ。

アメリカの彫刻家ラリー・バンバーグは、割れていない大きなタルクの塊から「TalctoTile」のシリーズを始めた。表面は柔らかく、かすかな艶。色はミルクティーのように淡い。爪で傷がつく石。

その表面と色が、バンバーグに等価物を探させた。正確な複製ではなく、石の感触を運びながら、石とは別のものであり続けるもの。

いくつもの判断を経て、彼は石けんに落ち着いた。

コールドプロセスの獣脂石けん

バンバーグはコールドプロセス法で自ら石けんをつくり、大きな板に流し込んだ。油脂は牛脂。何世紀も石けんに使われてきたものだ。石けんには着色料を加えた。

板は、浴室で使われる類の陶製タイルと交互に積まれた。いちばん上には原石のタルクの塊。シリーズの一作「TalctoTileTower, from a unstable foundation」(2016年)は、素材として、タルク、陶製タイル、コールドプロセスの牛脂石けん、着色料、合板、建設用接着剤、金物、そして蜂を挙げている。

遠くから見ると、塔は層に層を重ねた地層のように見える。近づくと、本物の石と本物のタイルと本物の石けんが並び、どの層が何なのか言い当てるのは難しい。

そして匂い。「Art in America」の評によれば、甘いミントのような匂いが入口で来場者を迎えた。タルクはそんな匂いはしない。タイルもしない。石けんからしか来ようがない。

原物と複製

展覧会「TalctoTile, PL'd to MDO」は、2016年2月14日から3月20日まで、ニューヨークの Simone Subal Gallery で開かれた。同ギャラリーでのバンバーグの2度目の個展だった。ギャラリーはこの作品群を、原物と複製のあいだの決して解決されない関係と戯れるものと説明した。

「TalctoTile」では、原物は石で、複製は石けん。けれど複製は別の部屋にあるのでも、模型として示されるのでもない。原物の隣に、上に置かれ、それを支えている。

一方は何百万年もの地質がつくる。もう一方は、ひとりの人が数週間でつくる。どちらも同じ場所に行き着く。浴室だ。タルクは粉になる。石けんは泡になる。タイルは壁になる。

バンバーグは、どちらがより大事かを言わない。積み上げて、あとは重力に任せる。ひとつの題名がすでにそれを語っている。from a unstable foundation。

生きている物

石けんは耐久性のある素材ではない。湿気を吸い、縮み、色を変え、香りを失う。ギャラリーに何週間も置かれた石けんの塔は、初日の姿とは同じでない。ここでは複製のほうが原物より生きている。タルクは動かない。石けんは老いる。

もうひとつの読み方もある。ジャニーン・アントーニの「Lick and Lather」に近い読み方だ。そこでは石けんが顔のかたちに鋳造され、水に削られていく。バンバーグは作品に身体を持ち込まない。それでも入ってくる誰もが、自分の浴室の記憶を携えている。手の石けん、赤ん坊の肌のパウダー、足もとの冷たいタイル。

「TalctoTile」が残るのは、ありふれた匂いに彫刻の仕事をさせるからだ。浴室を描写する必要はない。正しい素材を積めば、匂いが部屋を建てる。