エッセイ · 嗅覚アート

ローレン・ジェッティ「Notes」。

Lauren Jetty. Notes.

一度しか鳴らない歌。レコードが溶けていくから。

ローレン・ジェッティ「Notes」:溶けていく氷で鋳造され、香りと音を抱えたレコード

© Lauren Jetty · Lauren Jetty(公式サイト)



氷でできた三枚のレコード

「Notes」はローレン・ジェッティ(Lauren Jetty)の作品。2019年に始まり、いまも続いている。三枚のレコードからなり、ヴィニールではなく氷で鋳造されている。作品には二つの筋があり、それぞれ三部で構成される。氷に閉じこめた嵐の香りと、レコードから流れる声の作品。

氷は二つの役目を同時に果たす。音を鳴らす物であり、音と香りのイメージでもある。来場者は同じ凍ったかたまりから、レコードを見て、聴いて、嗅ぐ。

ジェッティは Attic Lab のレンスケ・ファン・フローンホーフェン(Renske van Vroonhoven)とともに香りを開発した。2020年、「Notes」は Institute for Art and Olfaction の、香りを用いた実験的な仕事に贈られるサダキチ賞(Sadakichi Award)の最終候補となった。

レコードが回り、溶けていく

作品は時間のなかで展開する。レコードが回り、氷が溶けはじめる。音は、氷のきしむ音が織りこまれた、心に残る声で始まる。きしみは大きくなる。声は細くなり、やがて消える。最後に残るのは氷のリズムだけ。鼓動のように一定に。

香りも似た道をたどる。まずオゾンと真水、雨が降る直前の空気の匂い。次に、かすかに花の気配を帯びた湿った葉。最後に濡れた土と木。あわせて、いまにも崩れそうな嵐の張りつめた気配を組み立て直す。

同じ上演は二つとない。氷は部屋の温度で、触れる手で、作家の制御できないもので溶ける。ジェッティは自分の役割を、指揮することではなく、手助けすることだと言う。作品の行方は氷が決める。

観客も参加する。氷に触れ、溶けるのを早め、作品を溶かしながら、その匂いと音を新しい順序で組み立て直す。

匂いと音、ひとつの性質

「Notes」が投げかける最初の問いは、二つの感覚の交差にかかわる。匂いも音も目に見えず、どちらも空気を伝って広がり、どちらも聞く人、嗅ぐ人の身体を通り抜ける。どちらも知覚されるのに時間がいる。音符は続いてはじめて音になる。匂いはそれとわかるまでに、何度かの呼吸がいる。

ジェッティは二つをひとつの素材に入れ、ひとつの運命を与える。氷が消えるにつれて、音と香りはともに変わる。観客は時の経過を時計ではなく、薄れていく声と立ちのぼる湿った土の匂いで感じる。

題名には二つの意味がある。音楽の音符と、書きとめたメモ。作品はその両方。一曲の音楽であり、消えていくものの記録でもある。

手のひらのなかの嵐

二つ目の問いは気候について。ジェッティは哲学者ティモシー・モートン(Timothy Morton)のハイパーオブジェクトという考えを参照する。気候変動のように、空間的にも時間的にも大きすぎて、人がまるごと把握できないもの。モートンはまた、そうした喪失を前にした喪の作業についても書いている。

「Notes」はハイパーオブジェクトを手の届くものにまで縮める。氷が溶け、私たちはそれが溶けていく音を聞き、匂いを嗅ぐ。嵐の香りは近づく天候を告げる。氷の最後の鼓動は、ひとつの生の短さを、はるかに大きな時間の尺度へと結ぶ。

作品は講義をしない。消えていくもののそばに来場者を立たせ、言葉で考える前に、耳と鼻でそれを感じさせる。