エッセイ · 現代アート
ローレンス・アブ・ハムダン「Walled Unwalled」。
Lawrence Abu Hamdan. Walled Unwalled.
壁は、思うほど閉じてはいない。
Tate · Tate
古いスタジオでの二十分
「Walled Unwalled」は、ローレンス・アブ・ハムダン(Lawrence Abu Hamdan)が2018年に制作した二十分のビデオ・インスタレーション。同年10月、ロンドンのテート・モダンの地下空間ザ・タンクス(The Tanks)で一週間、無料で公開された。
撮影は東ベルリンの録音スタジオ、フンクハウス(Funkhaus)で行われた。かつて東ドイツの国営放送が置かれた場所。音を管理するためにつくられた建物。遮音、残響、誰が何を聞くか。アブ・ハムダンがここを選んだのは偶然ではない。
映像のなかで、彼はそのスタジオのあいだに立ち、独白を語る。テートでは投影に、動く壁と音のパフォーマンスが加わった。半透明のパネルが光を漏らす。主題そのもののように。情報は、いつも障害物の先へ抜け道を見つける。
壁越しに聞かれた事件
独白は一連の裁判をたどっていく。場所も時代もまったく異なるが、ひとつのことを共有している。証拠が壁や扉や床を通り抜けたこと。
アメリカのカイロ事件(Kyllo)がある。捜査官が熱画像カメラで家から出る熱を読み取り、裁判所は、そうして壁を透かして見ることが捜索にあたるかを判断しなければならなかった。南アフリカのオスカー・ピストリウス事件がある。夜のあいだに隣人たちが壁越しに、また離れた場所から聞いたことが、裁判の中心となった。そしてシリアのサイドナヤ刑務所がある。
事件はそれぞれ少しずつ違うことを問う。技術が壁を透かして見られるとき、壁はまだ私生活の縁なのか。人の耳を証人として信頼できるのか。そして闇のなかに閉じこめられた人にとって、壁越しの音は、世界について知りうるすべてなのか。
耳で調べる調査者
アブ・ハムダンは1985年にヨルダンで生まれ、ベイルートを拠点に活動する。自らをアーティストであり音声の調査者だと称する。彼の分析は、英国の難民・移民審判所で証拠として用いられ、アムネスティ・インターナショナルやディフェンス・フォー・チルドレン・インターナショナルの提言活動にも使われてきた。
2016年、彼はアムネスティ・インターナショナルとともにサイドナヤ刑務所の調査に取り組んだ。元被拘禁者たちは、ほとんど何も見ることを許されていなかった。彼らは音で刑務所を記憶していた。アブ・ハムダンは、耳の記憶から空間を組み立て直す手助けをした。「Walled Unwalled」も、同じ年にロンドンのチゼンヘール・ギャラリーで開かれた個展「Earwitness Theatre」も、この仕事から生まれた。
彼はまた「[inaudible]: A Politics of Listening in 4 Acts」の著者であり、2017年にロンドンのゴールドスミスで博士号を取得した。彼にとって、芸術と調査はひとつの道具を共有している。注意深く聴くこと。
なぜ壁はまだ立っているのか
作品はどの事件にも判決を下さない。事件を並べ、見る者にひとつの型を見せる。家のなかでいちばん堅固だと信じられている壁は、じつは穴だらけだということ。
問いはどんどん身近になる。スマートフォン、スマートスピーカー、カメラ、熱センサー。アメリカ連邦最高裁がカイロ事件を判断した2001年より、いまははるかに多くのものが壁を通り抜ける。「Walled Unwalled」は未来を語らない。けれども、私たちの法とプライバシーの感覚が、いまも壁についての古い考えの上に立っていることを示す。
主に音でつくられた作品のなかでは、声に導かれて歩くジャネット・カーディフの作品の近くに立つ。どちらも思い出させる。耳は目より多くを知り、私たちが聞くものはしばしば枠の外にあると。
来場者はザ・タンクスを出て、コンクリートの上の他人の足音を聞く。ごくありふれた音。あの二十分のあとでは、別の意味を帯びる。