エッセイ · 現代アート
レイチェル・ローズ(Rachel Rose)「Everything and More」
Rachel Rose. Everything and More.
重力がなくなって初めて、体の重さを知る。
Whitney Museum of American Art · Whitney Museum of American Art
宇宙飛行士の証言
「Everything and More」は、レイチェル・ローズが2015年に制作した映像インスタレーションである。HD、カラー、サウンド、11分33秒。作品には部屋に置かれる素材がともなう。マイラー、PVC、カーペット。
全体を貫くのは、宇宙で暮らした宇宙飛行士デイヴィッド・ウルフ(David Wolf)の声である。彼は重力のない場所で体が何を感じるかを語り、地球への帰還を語る。あらゆる感覚が、どう働くかをもう一度学ばなければならないときのことを。
映像はドキュメンタリーのように彼の言葉を説明しない。ローズは、無重力訓練に使われる大きなプールの映像を、抽象的な液体の接写と対置する。色が広がり、渦を巻き、自らのなかに溶けていく。鑑賞者は何を見ているのか常にわかるわけではない。その不確かさこそ、作品が保ちたいものである。
部屋は映像の一部
作品は、ニューヨークのホイットニー美術館で開かれたローズの米国初個展で初公開された。会期は2015年10月30日から2016年2月7日。会場は5階のカウフマン・ギャラリー、キュレーターはクリストファー・Y・リュー(Christopher Y. Lew)。1986年生まれのローズは20代で、ニューヨークに暮らし制作していた。
美術館はレンゾ・ピアノ設計の新館に移ったばかりだった。ローズはその建築とともに仕事をした。映像はただスクリーンに映されたのではない。鑑賞者が部屋を映像の一部として感じるよう組み替えられた空間に置かれた。
足元のカーペット、反射するマイラー、プラスチックのパイプ。ありふれた素材だが、無重力の場面のそばに置かれると、鑑賞者に思い出させる。自分はまだ床の上に立っている。まだ重い。まだここにいる。
イメージはどこにでもある、意味はどこに
ホイットニー美術館はローズの方法を、特定の場所や考えから出発し、それをより広い主題に結びつけるものと説明する。自ら撮った映像と既存の素材の両方を使って。彼女の問いはこうだ。イメージがどこにでもあるとき、それはどうやってなお意味を生むのか。
「Everything and More」は、まったく異なる種類のイメージを並べることで答える。本当に地上を離れた人の言葉。それを模すために作られた訓練用プール。銀河のように見える液体の小さな流れ。どれも完全に本物ではなく、どれも完全に偽りでもない。
『The New Yorker』はこれを、文字どおりの意味でも比喩の意味でも、重力をめぐる叙事詩と呼んだ。地球の引力、そして人をとどまらせ、帰らせるものの引力。
あの11分がなぜ残るのか
宇宙をめぐる映像の多くは崇高で止まる。ローズは逆へ向かう。彼女が気にかけるのは、見られる広大な宇宙ではなく、感じる小さな体である。
だからこの作品は、宇宙のことなど考えない人にも届く。誰もが自分の体が奇妙になるのを感じたことがある。熱のあと、長い空の旅のあと、プールから上がってまた重さを感じるとき。ローズはそうした瞬間を取り出し、引き伸ばす。
水と体を扱う映像作品のなかで、これはビル・ヴィオラとキラ・ペロフの元素のスクリーンの近くに立つ。ただ、より軽く、儀式めかず、日常に近い。
部屋を出ると、鑑賞者は美術館の廊下に踏み出す。足は床の上。重力はいつものようにそこにある。それでも数秒のあいだ、何か新しいもののように感じられる。