エッセイ · 嗅覚アート

「Nez à nez(鼻と鼻)」。現代の調香師たち。

Nose to Nose. Contemporary Perfumers.

香りには形がない。部屋には形が要る。

mudac ローザンヌの Nez à nez。スタジオ Glithero が設計した嗅覚のインスタレーションの部屋

撮影:Daniela Droz、Tonatiuh Ambrosetti · designboom



十三の鼻

2019年2月15日から6月16日まで、スイス・ローザンヌの現代デザイン・応用美術館 mudac で「Nez à nez. Parfumeurs contemporains」が開かれた。英語では「Nose to Nose. Contemporary Perfumers」。

展覧会は、香りと嗅覚を専門とするフランスの雑誌『Nez』とともにつくられた。雑誌は人と香りの選定を助けた。結果として、作風もキャリアの段階も異なる、男女13人の現代の調香師が集まった。

その中には、ジャン=クロード・エレナとセリーヌ・エレナ、ドミニク・ロピオン、イザベル・ドワイヤン、オリヴィア・ジャコベッティ、ヴェロ・ケルン、ロドリゴ・フローレス=ルー、パトリシア・ド・ニコライ、マルク=アントワーヌ・コルティキアート、ピエール・ギヨーム、ファブリス・ペルグラン、モーリス・ルーセルがいた。大きなファッションハウスのために働く人もいれば、自分の小さなブランドのために働く人もいる。

題名は言葉遊びである。Nez はフランス語で鼻のこと。業界で調香師を呼ぶ言葉でもある。Nez à nez は向かい合うことを意味するが、ここでは鼻と鼻。訪れた人は、それぞれのつくり手の前に、わずかな空気だけをはさんで立つ。

Glithero の六つの部屋

デザインを担ったのは Glithero。サラ・ファン・ガメレンとティム・シンプソンによるロンドンのスタジオである。彼らは美術館の部屋に、六つの嗅覚のインスタレーションをつくった。展覧会の言葉によれば、目的は香水の非物質性を手でふれられるものにすることだった。

部屋はそれぞれ、仕事の仕方によって調香師をまとめていた。より外向きの調香師たちの部屋では、香りをつけた扇がテーブルから立ち上がっていた。訪れた人が扇を持ち上げてあおぐと、香りが小さな風に乗ってやってきた。

新しいアプローチの部屋では、香りは円錐形のガラスの器に入り、ピンポン玉で栓がされていた。栓はそれぞれ糸で、上に浮かぶヘリウム風船につながれていた。糸を引くと栓が上がり、香りが逃げ出す。ひと嗅ぎごとが、小さく意図された身ぶりになった。

歴史的な処方の部屋では、中心に、何世紀にもわたる香水瓶を描いたステンドグラスの窓があった。光はガラスを通り、下に置かれた香りの器に色となって落ちた。展覧会の中心には読書室があり、インタビューや、この職についての資料が置かれていた。

デザイン美術館が香水を嗅ぐ

香水はふつう店で見せられ、美術館で見せられることは少ない。美術館に入るときも、瓶や広告として、目に見える部分として現れがちだ。Nez à nez は違った。瓶はほとんどなかった。展示されていたのは香りと、それをつくった人たちだった。

デザイン美術館で開いたことにも意味があった。香水をデザインの産物として扱ったのだ。素材、工程、そしてデザインする人。調香師は、建築家や工業デザイナーのような創造の職業として現れる。

2012年のニューヨークで、チャンドラー・バーのThe Art of Scentが似た方向をとった。ほとんど何もない白い壁のくぼみに香りを示した。Nez à nez は形の上で逆へ進んだ。物を取り除くかわりに、嗅ぐ方法ごとに一つの物をデザインした。

どちらも同じ問いに答えている。目に見えないものを、どう展示するのか。一方は言う。空っぽにして、鼻に働かせよ。もう一方は言う。鼻が手を伸ばす先となる何かを与えよ。ローザンヌでは、扇も糸も色ガラスも、身を乗り出して息を吸うための誘いだった。