エッセイ · 嗅覚アート
オディロン・ルドン「Puis l'ange prit l'encensoir」。
Odilon Redon. Puis l'ange prit l'encensoir.
香の煙は、目に見える祈り。
Odilon Redon, And the Angel Took the Censer, 全12点中の第4図。The Art Institute of Chicago, The Stickney Collection · パブリックドメイン
「黙示録」の第四図
「Puis l'ange prit l'encensoir」、「そして天使は香炉を取った」は、「Apocalypse de Saint-Jean」の第四図。オディロン・ルドンが1899年にヨハネの黙示録をもとに制作したリトグラフの連作。
画面では、翼のある人物が片手に香炉を持つ。そこから煙が立ちのぼる。翼は体のまわりにかすかな輪郭として見えるだけ。天使が暗い地に溶けていくようにも、そこから現れ出るようにも見える。
シカゴ美術館によれば、クリーム色の薄い中国紙に黒で刷り、アイボリーの洋紙に貼り合わせたリトグラフ。画面はおよそ31×25 cm。薄い貼り紙が、黒にやわらかな深みを、明るい部分にあたたかな光を与える。
連作は表紙と十二点のリトグラフからなる。1899年にパリでアンブロワーズ・ヴォラールが出版し、ブランシャールがおよそ百部を刷った。ルドン最後のリトグラフ集。
ルドンと黒
オディロン・ルドンは1840年にボルドーで生まれ、1916年に没した。1870年代の終わりからおよそ二十年、彼はほとんど黒だけで制作した。木炭画とリトグラフ。彼はそれを les noirs、「黒」と呼んだ。
その世界は夢の世界。気球のように浮かぶ眼、水から浮かび上がる顔、どの博物誌にも載っていない混成の生き物。ルドンは象徴主義の中心人物のひとりになった。見えないもの、思考、予感、恐れを描こうとした運動。
1890年代の終わりには、彼は色彩へ、パステルと油彩へ向かっていた。だから「Apocalypse de Saint-Jean」はひとつの段階の終わりに立つ。黒への別れ。
黙示録は版画の世界で長い歴史をもつ。15世紀末のアルブレヒト・デューラーの木版画連作が、最もよく知られた道標。この主題を選ぶことで、ルドンはその系譜に身を置いた。けれど彼は、群衆や細部で世界の終わりを描きはしなかった。わずかに描き、残りを闇にまかせた。
祈りから火へ
黙示録第8章は短い場面を語る。一人の天使が金の香炉を持って祭壇のそばに立つ。聖徒たちの祈りとともに捧げるため、多くの香が与えられる。煙はその祈りとともに、天使の手から神の前へ立ちのぼる。
それから天使は同じ香炉を取り、祭壇の火を満たして地に投げつける。声、雷鳴、稲妻、地震。七つのラッパが鳴りはじめる。
ひとつの物の中で、香と火が入れ替わる。香炉は祈りの道具、甘い匂いの、捧げ物の道具だった。一文のうちに、それは怒りの道具になる。ルドンの題は Puis、「それから」で始まる。つなぎの言葉。何かが来ようとしていることを告げる。
キリスト教の儀礼でも、ほかの多くの文化でも、香炉はなじみの物。その煙は下にいる者と上にあるものを結ぶ。ルドンはその意味を保ったまま、出来事の縁に置く。版画の煙はやわらかく美しい。けれど物語を知る者は、それを前兆として読む。
この版画が記憶に値するのは、絵画の中で香りにまれな場所を与えているから。装飾でも、贅沢のしるしでもない。変化の瞬間の中心。画面で動いているのは煙だけ。ほかのすべては待っている。