エッセイ · 現代アート
ランダム・インターナショナル(Random International)。「Rain Room」。
Random International. Rain Room.
雨は私たちから退く。その匂いは退かない。
私たちの居場所を知る雨
「Rain Room」は、ランダム・インターナショナルが2012年に制作したインスタレーション。約100平方メートルの人工の雨の場で、天井から格子状の床へ休みなく降りつづける。
訪れた人は雨のなかへ歩み入る。すると雨は、ちょうどその人が立つ場所で止まる。動けば、乾いた空間もともに動く。見えない傘のように。背後では、また雨が降る。
これを実現するため、スタジオは頭上に3Dトラッキング・カメラを置き、一人ひとりの位置と動きを捉える。専用のソフトウェアが電磁弁を制御し、鋼の梁に取り付けた射出成形のタイルを通る水の流れを開け閉めする。水管理システムが、格子の床を抜けて落ちた水を集め、再び使う。
そのすべては隠されている。訪れた人に見えるのは、雨と、遠くから射す一つの光と、水のなかで乾いたまま立つ自分自身だけだ。
The Curve、ロンドン
作品は2012年10月3日から2013年3月4日まで、ロンドンのバービカン・センターの長く湾曲したギャラリー、The Curve で初公開された。展覧会は Maxine and Stuart Frankel Foundation for Art と Arts Council England の支援を受けた。
ロンドンのあと、「Rain Room」は広く巡回した。ニューヨークの MoMA、ロサンゼルスの LACMA、上海の余徳耀美術館(Yuz Museum)、アラブ首長国連邦のシャルジャ美術財団、釜山市立現代美術館、メルボルン、そしてミシガンの Maxine and Stuart Frankel Foundation for Art。
そのたびに空間に合わせて組み直されるが、原理は変わらない。いつも人に道をあける雨。
制御か、見張られることか
ランダム・インターナショナルは作品を簡潔に説明する。人の存在が雨を止め、それを通して、私たちの互いとの関係、自然との関係が、ますますテクノロジーに媒介されていくさまを見つめる、と。
外から見ると、「Rain Room」は魔法のようだ。訪れた人は、自分が雨を操っていると感じる。実際には、機械が彼らを見ている。一歩一歩、一つひとつの身振りを。見えない傘が存在するのは、カメラがその下にいる人から一瞬も目を離さないからにすぎない。
ゆっくり歩けば濡れない。走れば濡れる。システムが反応するには時間がかかるからだ。作品は、訪れた人に気づかれないまま、機械の速さで動くことを教える。それがいちばん興味深いところかもしれない。「Rain Room」の自由は、計算された自由である。
なぜあの雨は残るのか
「Rain Room」は2010年代に最も話題になったインスタレーションの一つになった。スマートフォンのカメラが良くなり、SNS が美術館の訪れ方を形づくりはじめた、ちょうどその時期に現れた。雨のなかで濡れずに立つ人。誰もが撮りたくなる一枚だ。
その層を剥がしても、残るものはなお注目に値する。作品はごく身近なもの、雨を取り上げ、一つの規則だけを変える。雨は私たちに触れない。その一つの変化だけで、訪れた人は雨を初めてのように見る。
それはテート・モダンにおけるオラファー・エリアソンの人工の太陽と並ぶ。同じくロンドン、同じく天候を屋内に持ち込む作品。エリアソンは、人々を手の届かないものの下に横たわらせる。ランダム・インターナショナルは、人々を自分に届かないもののなかへ歩ませる。
外に出ると、ロンドンは本当に雨かもしれない。その雨は誰にも道をあけない。そして訪れた人は、久しぶりに、雨に打たれるままでいる。