エッセイ · 現代アート

Susan Hiller. From the Freud Museum.

箱のひとつひとつが、名前を与えられた記憶。

Susan Hiller「From the Freud Museum」。展示ケースに並ぶ考古学用の段ボール箱。それぞれに小さな物と説明文

Tate · Tate



50の箱

「From the Freud Museum」は、Susan Hiller が1991年から1996年まで数年をかけて制作した作品だ。所蔵するテートは、ガラス、50の段ボール箱、紙、ビデオ、スライド、電球、その他の素材を挙げている。

箱は、発掘品を保管するために考古学で使われる段ボールの箱だ。どの箱にも、小さくつつましい物がいくつか入っている。聖水の小瓶、ひとつかみの土、写真、地図。それぞれにラベルと説明文が添えられている。

並べられた50の箱は、研究用のコレクションのように見える。けれど、そのコレクションが何を証明するのかを語るパネルはない。見る人は箱をひとつずつ見ていくしかない。

フロイトの家

タイトルが指すのは、ロンドンのフロイト博物館、ジークムント・フロイト (Sigmund Freud) の最後の住まいである。1938年、ウィーンを去った彼はそこへ移り、生涯かけて集めた古美術のコレクションを持ってきた。エジプト、ギリシャ、ローマ、中国の小さな像が、彼の机にひしめいていた。

フロイトはしばしば精神分析を考古学にたとえた。層をひとつずつ掘り、埋もれた断片を見つけ、物語をつなぎ合わせる。彼の家は、二種類の発掘が出会う場所だ。ひとつは土の中、ひとつは心の中。

Hiller はまさにその枠組みを取り上げた。考古学用の箱、ラベル、展示ケース、博物館の言語そのものを使った。けれど彼女が収めたのは貴重な古美術ではなかった。小さく、ありふれた物。公式のコレクションの縁に置き去りにされがちなものだった。

見過ごされたものの博物館

Hiller はアーティストになる前に人類学を学んだ。物を見る彼女のまなざしには、その訓練が宿っている。どの物も、人がどう生き、どう信じ、どう記憶するかの証拠だ。聖水は信仰を語る。ひとつかみの土は場所を語る。地図は、誰かが世界をどう思い描いたかを語る。

箱に収められ、ラベルを貼られると、これらの物は新しい位置を得る。もはやごみではなく、古美術とまでは言えない。そのあいだにある。フロイトが研究した夢のように。断片的で、混乱していて、それでもよく見れば意味がある。

作品にはビデオ、スライド、電球も含まれる。光と動く像が静止した物のあいだに入り込み、コレクションは決して完全には静まらない。アーカイブの内側で、まだ何かが起きている。

記憶を抱くためにアーカイブを使ったアーティストはほかにもいる。クリスチャン・ボルタンスキー (Christian Boltanski) が何千もの人の心音を録音したように。Hiller のアーカイブはもっと小さく、もっと個人的だ。ひとりの人に属しながら、すべての人を招き入れる。

ラベルを読み、もう一度見る

ふつうの博物館では、物を見て、それからラベルを読む。ラベルはその物が何であるかを教える。「From the Freud Museum」では、その順序はもう確かではない。ラベルは物を説明しなくてもよい。物が自分からは示さない思考の筋道を開くこともある。

見る人はゆっくりにならざるをえない。説明文を読み、箱の中をのぞき、自分の何かを思い出し、次へ移る。50回。最後に持ち帰るのは、ひとつひとつの物についての知識ではなく、記憶がどのように並べられるかという感覚だ。

Hiller は、どの記憶が正しいのか、どの文化がより重要なのかを言わない。何を残し、それをどう呼ぶかを選ぶことが、すでにひとつの決断だと示すだけだ。どの博物館も、誰かが語ると選んだ物語である。彼女の博物館もそうした物語のひとつ。他の人が見過ごした物で語られた物語だ。