エッセイ · 現代アート
ロジャー・ハイオンズ「Seizure」。
Roger Hiorns. Seizure.
人が去ると、家は物質のものになる。
提供 Artangel · Artangel
ハーパー・ロードの一室
ロンドン南部エレファント・アンド・キャッスル(Elephant & Castle)、ハーパー・ロード151番から189番に、取り壊しの決まった公営団地があった。2008年、ロジャー・ハイオンズはそこの一階のワンルームを選んだ。見るべきものは何もない、小さくありふれた部屋。
部屋は密閉された。硫酸銅の粉末を熱湯と混ぜ、濃く飽和した溶液にした。溶液は、どの部屋も天井まで満ちるまで注ぎ込まれた。アートエンジェル(Artangel)によれば、75,000リットルに達した。
それから待つ時間が来た。液体はひと月かけて冷えた。温度が下がるにつれ、水は溶けた銅の塩をすべて抱えていられなくなった。それは結晶し、出会った表面を何でもつかんだ。
最後に、残った液体が吸い出された。扉が開いた。
青い洞窟の中
足を踏み入れた人が見たのは、もはや部屋ではなかった。壁も天井も床も、鋭い青の結晶に覆われ、照明の下できらめいていた。角はまっすぐな線を失った。どの面も似て見え、部屋がひとつの鉱物から彫り出されたかのようだった。
誰かがここに住んでいたことを示す唯一のしるしは、浴槽だった。それも結晶していたが、形はまだ見分けられた。日々の暮らしの私的な物が、いまは化石のように洞窟の中に立っている。
訪れた人にはゴム長靴と手袋が渡された。一度に入れるのは数人だけ。空間は狭く湿っていて、素材は素手で触れるものではなかった。人はゆっくり動き、身をかがめ、近くで見た。
作品は2008年9月2日から2010年1月3日まで公開された。アートエンジェルとジャーウッド財団(Jerwood Foundation)の委嘱により、アーツカウンシル・イングランド(Arts Council England)とチャンネル4(Channel 4)の支援を受けた。2009年、ハイオンズはターナー賞の最終候補に選ばれた。
建物が取り壊されたとき
ハーパー・ロードの団地は、すでに取り壊しが予定されていた。作品は、その住まいが長く続かないと知りながらつくられた。けれどハイオンズは部屋を残したかった。
2011年2月、31トンを超える結晶の塊全体が切り離され、運び出された。行き先はイングランド北部ウェイクフィールドのヨークシャー彫刻公園(Yorkshire Sculpture Park)。そこでアダム・カーン・アーキテクツ(Adam Khan Architects)がそれを収める建物を設計した。2013年6月から、訪れる人は再び中に入れるようになった。
ここには奇妙なものがある。住む場所としての部屋は、もうない。それを囲んでいた建物もない。けれどその内部、かつて住人が暮らした空気の鋳型は、結晶によって型どりされ、運び去られた。空間は建物より長く生きた。
物質が仕事をする
英語の Seizure にはいくつかの意味がある。つかむこと、差し押さえ、発作。題は作品にふさわしい。部屋は乗っ取られる。人によってではなく、化学の過程によって。
ハイオンズは条件を整えたが、最終的な形は描かなかった。結晶はひとつひとつ自分の規則で育った。この点で「Seizure」は、「Hammer Projects: Roger Hiorns」のエッセイで扱った彼のほかの作品とつながる。ここにはもうひとつの層がある。これは住まいなのだ。
取り壊しを控えた団地の一室は、政策の、立ち退かされた人々の、変わっていく都市の物語を抱えている。ハイオンズはそれを語らない。人が去った場所を、物質に覆わせる。
結果は美しく、同時に落ち着かない。誰もが見たくなる青が、誰も住めない部屋にある。