エッセイ · 写真
川内倫子(Rinko Kawauchi)「Illuminance」
Rinko Kawauchi. Illuminance.
並んだ二枚の写真は、一枚では言えないことを言う。
Aperture · Aperture
写真の集まりではなく、一冊の本
「Illuminance」は2011年に刊行された。1972年滋賀県生まれの日本の写真家、川内倫子の写真集である。成安造形大学でグラフィックデザインと写真を学び、写真を仕事にした。以来、二十五冊を超える本を出している。
川内にとって本は、仕上がった写真を入れる器ではない。本そのものが作品だ。ページの順序、どの像を左に、どれを右に置くか、どれがページをめくったときにだけ現れるか。すべて彼女の決定である。「Illuminance」の一枚をギャラリーの壁に単独で掛ければ、別の意味になる。
初版から十年後の2021年、Aperture は「Illuminance」を記念版として再刊した。川内の元の順序をそのまま残し、キュレーターのデヴィッド・チャンドラー、哲学者の篠原雅武、Aperture のクリエイティブ・ディレクター、レスリー・A・マーティンの文章を加えている。順序を損なわずに残したことは、そこが触れてはならない部分だと理解している証だ。
誰も撮らないもの
「Illuminance」の中身は身近なものだ。光、仕草、一日の小さなかけら。誰もが通り過ぎてきた種類の瞬間。追うべき主人公も、見分けるべき名所も、語るべき出来事もない。
たいていの写真家は、物語にするには小さすぎるとして、こうした瞬間を通り過ぎるだろう。川内はそこで立ち止まる。彼女の写真の光は、しばしば柔らかく、少し淡い。色は実際より少し明るく、薄い空気の層を通して見ているようだ。タイトルの Illuminance(照度)は物理の用語で、面に落ちる光の量のこと。この本の本当の主題を、飾らずに名指している。物ではなく、物に出会う瞬間の光。
Aperture はこの本を三つの要素で説明する。細やかに観察された仕草、日常の細部、そして繊細に選ばれた色調。どれも派手ではない。その重みは、ページを重ねて、ともにあるときにだけ現れる。
このタイトルの選び方には、目を留める価値がある。照度は、照らされるものに左右されない。同じ光源の下の白い紙と灰色の小石は、同じ量の光を受ける。違うのは、それぞれの表面の答え方だ。川内はその答えを撮る。水は肌とは違うふうに光を受け、葉は壁とは違うふうに受ける。どのページも、同じ光の下に立つもうひとつの表面である。
ページをめくるリズム
「Illuminance」のような本を読むのは、言葉のない音楽を聴くのに似ている。向かい合うページは、形で、色で、明るさで、あるいは名づけにくい感覚だけでつながっているかもしれない。なぜ並んでいるのかを説明するキャプションはない。見る人はつながりを感じるか、感じないか。どちらも読み方である。
だからこの本は、刊行後に広く語られた。2012年、川内はドイツ取引所写真賞(Deutsche Börse Photography Prize)の最終候補に選ばれた。すでに2002年に木村伊兵衛写真賞を、2009年に国際写真センター(ICP)のインフィニティ賞を受けていた。
賞を超えて、本を閉じたあとに残るのは、ひとつの見方だ。「Illuminance」のあと、台所の床の日だまりが、少しだけ目を留める価値のあるものに思える。この本は私たちを新しい場所へ連れていかない。見慣れた場所へ、よりゆっくりした目で連れ戻す。
その十年前、「Utatane」で、川内は小さなもののなかに不思議を探しはじめていた。「Illuminance」は、彼女がいまもその問いとともにあり、その答えをより長いリズムに並べることを学んでいるのを見せる。