エッセイ · 嗅覚アート

リヴァーニ・ノイエンシュヴァンダー「Eatable Alphabet」

Rivane Neuenschwander. Eatable Alphabet.

ひとつひとつの文字が、台所の匂い。

リヴァーニ・ノイエンシュヴァンダー「Eatable Alphabet」:白いパネルに並ぶ、スパイスの粉の水平の縞

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26枚のパネル、26の粉

「Eatable Alphabet」、ポルトガル語で「Alfabeto comestível」は、リヴァーニ・ノイエンシュヴァンダーが2001年に制作した。26枚のパネルからなり、それぞれ約71.5×50センチ。地は白い PVC。その上を色のついた水平の縞が走る。

色は絵具ではない。食品の粉とスパイスを、透明な粘着テープで表面に留めたものだ。縞の一本一本は、テープの帯の下にある粉の帯。手法はほとんど子どもの遊びなのに、仕上がりは本格的な幾何学的抽象そのものに見える。

26枚のパネルは、ラテン文字の26文字に対応する。各文字にはアルファベット順にひとつの粉が与えられるが、その名はさまざまな言語から来ている。系列はポルトガル語のアサフラン(açafrão)から始まり、黒胡椒(black pepper)、アニス、チリ、ディル、そして胡麻を意味するジェルジェリン(gergelim)を経て、中東のハーブミックス、ザアタルで終わる。

オレンジ色の粉を使うパネルもあれば、インドのカレーを使うものもある。文字と文字を分けるのは、それぞれの粉の色と、粉そのもの。

やわらげられた体系

アルファベットは、子どもの頃に学ぶもっとも堅い体系のひとつだ。A は B の前。B は C の前。交渉の余地はない。ノイエンシュヴァンダーは順序を保ちながら、それぞれの場所に思いがけない中身を与える。S の文字はもはや音ではない。味と匂いと故郷をもつ粉だ。

名前も言語を越えていく。ある文字はポルトガル語、次は英語、その次はまた別の言葉。多くの言語を書き表すラテン文字が、どの言語も店を広げるスパイス市場になる。

書き言葉の最小単位を世界のスパイスと結びつけることで、自由な連想がひらかれる。見る人は各文字を、ひとつの料理として、ひとつの土地として、ある食事の記憶として読むことができる。体系はまだそこにある。ただ、今は味がついている。

1967年ベロオリゾンテ生まれのこのブラジルの作家は、小さく、朽ちやすいものをよく扱う。シャボン玉、リボン、食べ物。かつてはカタツムリに米紙を食べさせ、文の行のように読める穴を残した。「Eatable Alphabet」も同じ流れにある。書くことと食べることが出会い、どちらも食べ尽くされうる。

目は縞を見る、鼻は台所を見る

このシリーズの前で、視覚は見慣れたものを見つける。縞のリズム、対比、余白。見るだけなら、26枚すべての前を通り過ぎ、色彩の練習だと思うこともできる。

けれど素材は色以上のものを運ぶ。胡椒、カレー、胡麻、アニス、ハーブは、目で知る前に鼻と舌で知っているものだ。素材がスパイスだと知ったとたん、見え方が変わる。茶色の2枚のパネルは、台所ではまったく違う2つのものかもしれない。それらを見分けるのは、もはや色ではなく、見る人が携えてくる匂いと味の記憶。

ここで作品は、ギャラリーのいつもの序列をひっくり返す。先に招かれるのは視覚だが、理解するのは嗅覚だ。抽象画がスパイスの棚になる。

2014年、このシリーズはサンパウロ近代美術館で開かれたノイエンシュヴァンダーの大規模な展覧会「mal-entendidos」で展示された。スパイスを彫刻の素材として使う他の実践とも近い。たとえばベニタ・ペルシヤルの香、ハーブ、スパイスで象られた像。どちらでも台所の粉は見るものへと高められ、それでも食べるもの、嗅ぐものであることをやめない。