エッセイ · 嗅覚アート

鈴木長吉「Incense Burner」

Suzuki Chōkichi. Incense Burner.

一国を見せるために作られた香炉。

鈴木長吉、高さ2メートルを超える鋳造青銅の香炉。根を張った木の切り株に雄と雌の孔雀、取っ手のある鉢と蓋

© Victoria and Albert Museum, London · Victoria and Albert Museum (V&A)



切り株と二羽の鳥

この香炉はロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館の所蔵で、収蔵番号は 188:1 to 9-1883。1から9の番号は、別々に鋳造された九つの部品からなることを示す。作者は鈴木長吉、雅号「嘉幸」で銘を入れている。制作はおよそ1877年から1878年。

鋳造し、着色仕上げを施した青銅。高さ228.6 cm、幅128 cm。そばに立つと、たいていの来館者は見上げることになる。一つずつ鋳造された九つの青銅の部品が組み上がり、人の頭より高い物になる。

かたちは自然の一場面。下に、根を広げた木の切り株。切り株の上に、雄と雌の孔雀。場面の中央に香炉そのもの。取っ手のある鉢、上部、つまみのついた蓋。鉢、上部、蓋、台座はそれぞれ別に鋳造され、あとで組み立てられた。

鉢の下には「大日本嘉幸製」の銘がある。大日本、嘉幸これを作る。短い一行だが、この物が誰を代表しているのかをはっきりさせる。

木から鋳て、生きた鳥から学ぶ

V&A は鳥の細部をきわめて写実的だと記している。羽、立ち姿、首の伸びがあまりに近く写されているため、作者は生きた鳥を観察したと博物館は考えている。後年の作品のために、鈴木長吉は工房で鳥を飼い、その体のつくりと姿勢を正確にとらえた。

切り株にはもうひとつの話がある。V&A によれば、本物の木から型をとって鋳造された可能性がある。十九世紀の日本の金工が用いた技法だ。樹皮を手で造形するのではなく、樹皮からじかに型をとる。ひび割れはすべて本物のひび割れだ。

ふたつの方法は同じ方向を指す。想像ではなく、記録。鳥は生きた鳥から見て写される。木は本物の木から写しとられる。香炉は、存在する物の青銅の記録になる。

その記録の中心にあるのは、見ることのできない唯一の部分、香だ。焚かれると、煙は鳥のまわり、切り株のまわりに立ちのぼり、部屋に消えていく。じっくり見られるために作られた物のあいだに置かれた、目に見えないもの。

パリからロンドンへ

1878年、香炉はパリ万国博覧会に出品された。運んだのは、日本政府の後ろ盾をもつ起立工商会社。明治のはじめ、開国まもない日本が、工芸を通して世界に自らを見せようとしていた時期だ。

高さ2メートルを超える香炉は日用の物ではない。大きな展示会場に立ち、ヨーロッパの来場者の群れのなかで、人の足を止めるために作られた。その役目において、道具というより大使に近い。

博覧会のあと、美術商ジークフリート・ビング(Siegfried Bing)が買い取った。1883年、彼はそれを £1,586 7s 2d で V&A に売った。博物館の記録によれば、この購入には大蔵省の特別な許可が必要だった。いまは Room 45、東芝ギャラリーに立っている。

この香炉が記憶に値するのは、香が一部屋よりも大きなことを語るために使われうると示しているからだ。ここでは匂いはきっかけにすぎない。語られるのは技、観察、自らを紹介する一つの国。それでも真ん中には今も小さな鉢があり、そこに香をひとかけら置いて、静かに焚くことができる。