エッセイ · 嗅覚アート

友治「Set of incense utensils」

Tomoharu. Set of incense utensils.

どの道具も、金属にとどめられたひとつの所作。

トモハル、象牙の柄の銀の香道具一式。透かし彫りの花の銀の筒に立つ火箸、香匙、香箸、香針、灰押

© Victoria and Albert Museum, London · Victoria and Albert Museum (V&A)



銀の筒に収まる七つの道具

この一式はロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の所蔵で、収蔵番号は M.427-1910。記録には、作者はトモハル、場所は日本、年代はおよそ1700年から1850年とある。素材は銀、柄は象牙。

部品は七つ。香箸が二本。灰押。香針。香匙。火箸。そしてそれらすべてを収める筒。筒は銀製で、透かし彫りと花の線刻がほどこされ、高さ87 mm、径43 mm。

一式は片手に収まる。茶碗よりも小さい。道具は象牙の柄を上にして筒の中にまっすぐ立ち、乾いた小枝の束のように見える。

博物館の説明は短い。組香のための道具。火箸、香匙、灰押、香箸、香針が、透かし彫りと花の線刻をほどこした銀の容器に収められている。誰が、どこで、どれほどの頻度で使ったのかは何も書かれていない。

燃やさずに、聞く

なぜ七つの道具が要るのかを知るには、日本の香の道、香道で香がどう楽しまれるかを知るとよい。そこでは木を燃やして煙にはしない。小さな炭団を香炉の灰に埋める。灰を盛り、形を整える。その上に薄い雲母の板を載せ、雲母の上に香木のひとかけら、多くは沈香を置く。

熱は炭から、灰を通り、雲母を通り、木へと伝わる。木はゆっくりと温まり、燃えずに匂いを放つ。客は順に香炉を顔の前へ持ち上げる。そして香を嗅ぐとは言わず、香を聞くと言う。

組香では、参加者がいくつもの香を順に聞き、どれとどれが同じかを当てる。木の名前は誰にも見えない。あるのは匂いと、たったいま過ぎた匂いの記憶だけ。

どの段階も、正確な所作を求める。熱が均一にのぼるよう、灰はならさなければならない。雲母は正しい場所に据えなければならない。米粒ほどの木のかけらを、落とさずに持ち上げなければならない。一式はそのひとつひとつの求めに応える。V&A の記録は道具を名前で挙げるが、それぞれをいつ使うかは記していない。それでも名前は、道具が手の仕事をどう分け合うかを示している。つまむ、すくう、ならす、刺す。

トモハル、そして書き残されなかったこと

つくり手について、博物館に残るのは名前だけだ。トモハル。生没年も、工房も、町もない。一式に与えられた年代の幅は一世紀半に及ぶ。それが、知らないということを博物館が誠実に言うやり方だ。

一式の来歴も一行に収まる。1910年、博物館は Hogitaro Inada 氏からこれを購入した。このことは2022年、アジア部門の登録簿にもとづく来歴調査プロジェクトで改めて確認された。いま一式は、V&A が日本美術を展示する45番展示室、東芝ギャラリーに並んでいる。

つまりここにあるのは、つくり手がほとんど無名で、使い手がまったく無名で、匂いがとうに消えた物だ。無傷で残っているのは、所作の形。香箸の長さは、手と熱のあいだの距離を語る。香匙の平たさは、木がどれほど小さかったかを語る。筒の透かし彫りの花は、使われないときにも眺められるためのものだったと語る。

この一式が記憶に値するのは、めったに語られないことを語るからだ。香りには、扱い方が要る。すべての匂いがただやって来るわけではない。七つの銀の道具で、平らに押さえた灰で、いつ身を引くかを知る手で、準備されなければならない匂いもある。