エッセイ · 現代アート
トレヴァー・パグレン「The Other Night Sky」
Trevor Paglen. The Other Night Sky.
どこを見ればよいか知っていて、はじめて見えるものがある。
リストにない衛星
地球をめぐる軌道には、アメリカ合衆国政府が認めない物体が数多くある。偵察衛星、軍事衛星、残骸。公式には存在しない。けれど、そこにあるほかのものと同じように太陽の光を反射する。だから地上から見える。
長いあいだ、多くの国にアマチュア衛星観測者のネットワークがある。彼らはこうした物体の位置、時刻、軌道を記録し、共有する。双眼鏡と時計とノートを手に、夜ごと続く根気のいる仕事だ。
トレヴァー・パグレンはこの共同体のデータを取り、複数の情報源と照らし合わせ、秘密の衛星が空のある一点をいつ通過するかを計算した。彼はこうした物体の総和を、もうひとつの夜空(the other night sky)と呼んだ。
来ると知っているものを撮る
写真をつくるために、パグレンは望遠鏡、大判カメラ、コンピューター制御の架台を使った。位置と時刻の精度は高くなければならない。衛星が画面を横切るのはほんの一瞬。数分ずれれば、写るのは星だけ。
結果は大きな天体写真だ。一見、ありふれた星座の写真に見える。黒い地に、光の点が密に散る。近づいて見ると、画面を横切る細い一本の直線がある。露光のあいだに偵察衛星が残した軌跡。
鍵となる一枚が、2007年の「LACROSSE/ONYX II Passing Through Draco (USA 69)」。約59×47インチのCプリント。題は記録の一行のように読める。衛星名、横切った星座、その識別番号。星座はりゅう座、星を眺める人にはなじみ深い。衛星はどの星図にも載っていない。
バークレーでの展覧会
2008年6月1日から9月14日まで、バークレー美術館・パシフィック・フィルム・アーカイブ(BAMPFA)は、このシリーズを「MATRIX 225」として展示した。パグレンにとって初の美術館での個展だった。
写真と並んで、地球をめぐる189基の衛星の軌道を描くアニメーションの投影があった。見る人は二つのものを同時に見た。星々を背にした一本の具体的な筋と、惑星を包む巨大なネットワーク。
BAMPFAは彼の方法を、ひと組の戦術として説明した。データ分析、フィールドワーク、長距離撮影、天文学。彼は写真家であるだけではない。公式の地図が空白のまま残す区域を地図に描く地理学者に近い。
見るはずのないものを見る
夜空は長く、神話の場所、航海の場所、農の暦の場所だった。パグレンは、そこが現代の秘密の場所でもあることを示す。同じ空の一角を、星座の名でも衛星の名でも読める。
心に残るのは、この仕事が劇的なものを何ひとつ必要としないことだ。機密文書も、クローズアップもない。ごく小さな光の線だけ。ほとんど引っかき傷のような。その重みは、その線が何かを知っていることから来る。
写真はまた、ほかの人々に頼っていることを隠さない。アマチュア観測者がいなければ、像はない。作品は写真であると同時に、共有され、根気強く、非公式な、ある種の知の証しでもある。パグレンの空は、地平線をもうひとつ長く見つめた杉本博司の「Seascapes」とつながる。