エッセイ · 現代アート
トゥアン・アンドリュー・グエン(Tuan Andrew Nguyen)。「The Specter of Ancestors Becoming」。
Tuan Andrew Nguyen. The Specter of Ancestors Becoming.
記憶は思い出されるだけではない。受け継がれる。
© Tuan Andrew Nguyen · SFMOMA
西アフリカから来た兵士たち
1940年代、フランスは多くの植民地部隊をインドシナへ送った。そのなかに tirailleurs sénégalais、フランス軍に仕える西アフリカの兵士たちがいた。彼らは独立を求めるベトナムの蜂起を鎮圧するために送られた。
兵士のなかにはベトナム人女性と結婚した者もいた。彼らはベトナムで子をもうけた。1954年、ディエンビエンフーでフランスが敗れたあと、何百人ものベトナム人女性が夫と子どもを追ってアフリカへ渡った。見知らぬ国セネガルで、ちがう言葉、ちがう気候のなか、一からやり直した。
妻を連れていかなかった兵士もいた。子どもだけを連れていった。その子らはセネガルで育ち、ときに自分の出自を何も知らなかった。家族の半分は海の向こうに残り、ゆっくりと、誰も口にしない空白になった。
半世紀以上がたった今も、こうした家族の子孫はセネガルに暮らしている。二つの血筋、二つの歴史、そして誰も答えていない多くの問いを抱えた小さな共同体である。
想像された会話
1976年にベトナムで生まれたトゥアン・アンドリュー・グエンは、セネガルのベトナム系コミュニティの人々と協働した。インタビューのドキュメンタリーはつくらなかった。親と、祖父母と、あるいは亡くなった者どうしの、想像上の会話をともに書き、演じた。
こうした会話は実際には交わされなかった。子は母に、なぜ故郷を離れたのかを尋ねなかったのかもしれない。孫は、遠い国で銃を手にした祖父が何を考えていたのかを知らなかったのかもしれない。作品は彼らに、問い、答えを想像する場を与える。
その結果が、2019年に完成した「The Specter of Ancestors Becoming」である。7.1サラウンドの音響をもつ4チャンネルのビデオ・インスタレーションで、長さは28分。見る者は四つのスクリーンのあいだに立ち、いくつもの方向から声を聞く。家族全員が同じ部屋にそろうことのない一家のなかに立つように。
作品が差し出すのは、より正しい歴史ではない。さまざまな記憶のしかたである。子孫はそれぞれ一つのかけらを持ち、かけらはそれぞれのやり方で記憶され、ときに互いにくい違う。
シャルジャからサンフランシスコへ
作品は2019年、シャルジャ・ビエンナーレで初公開された。同じ年、SFMOMA の展覧会「SOFT POWER」で米国初公開となり、SFMOMA は2020年にこれを収蔵した。2022年にはダカール・ビエンナーレで展示され、この家族たちが暮らす国へと戻った。
その帰還には意味がある。セネガルの人々とベトナムの人々の物語が、セネガルで、画面に映る人々の隣人かもしれない観客の前で語られる。作品はもう遠くからのまなざしではない。
トゥアン・アンドリュー・グエンはかつて、ベトナム南部の葬儀を扱った「The Living Need Light, the Dead Need Music」を手がけたコレクティブ The Propeller Group の一員だった。どちらの作品も死者に触れる。だがコレクティブの映像が音楽に満ちた別れであるのに対し、この作品は逆向きの呼びかけである。生者が死者に、戻ってきて、問われなかったことに答えてほしいと求める。
題名は、形をとりつつある亡霊を語る。ここでの祖先は、祭壇に固定された顔ではない。その血を引きながら会ったことのない人々によって、一行ずつ組み立て直されている。