エッセイ · デザインとしてのファッション
ヴァージル・アブロー「Figures of Speech」。
Virgil Abloh. "Figures of Speech".
物を引用符でくくると、物は語りはじめる。
© Juergen Teller, 2018 · シカゴ現代美術館(Museum of Contemporary Art Chicago)
初めての美術館展
「Virgil Abloh: "Figures of Speech"」は2019年6月10日から9月29日まで、シカゴ現代美術館4階の Griffin Galleries of Contemporary Art で開かれた。MCA はこれを、アブローの仕事に捧げた初めての美術館展として紹介した。
キュレーションは MCA のチーフキュレーター、マイケル・ダーリング(Michael Darling)と、チャノン・ケンジ・プラエピパットモンコン(Chanon Kenji Praepipatmongkol)。空間デザインは、レム・コールハースの建築事務所 OMA のリサーチスタジオ AMO のディレクター、サミール・バンタル(Samir Bantal)。
アブローは1980年生まれ。シカゴのイリノイ工科大学で建築を学んだ。カニエ・ウェストとアルバムジャケットやコンサートのデザインを手がけた。2013年にミラノで Off-White を創設。2018年にルイ・ヴィトンのメンズ・アーティスティック・ディレクターになった。
つまり展覧会は、彼が学んだ街でひらかれた。MCA は、メディアを横断し、ヴィジュアルアーティスト、音楽家、グラフィックデザイナー、ファッションデザイナー、建築家をつなぐ実践として彼の仕事を紹介している。
ギャラリーの中の街の物
展覧会は音楽、ファッション、建築、デザインをめぐった。代表的な服のコレクション、ランウェイの映像、家具、グラフィックデザイン、現代アートの作家たちと作ったプロジェクト。
2021年にはボストン現代美術館(Institute of Contemporary Art)へ巡回した。7月3日から9月26日まで。そこでの展示風景には具体的な物が写っている。傾けて置かれた真っ黒なガソリンスタンドの看板、スニーカーの棚、ネオンオレンジの鎖で台座に縛られたルイ・ヴィトンのバッグ、ケースに入った巨大な CD、黒い台座の上の淡い青の梯子。それに家具と敷物。
これらの物はふつうの暮らしから来ている。ガソリンスタンド、靴屋、レコード、梯子。アブローはそれらを別の何かに変えない。大きくし、傾け、鎖でつなぎ、台座に載せる。小さな操作ひとつで、物はひとつの考えとして読まれはじめる。
タイトルがいちばんはっきりそれを語っている。Figures of speech とは、言葉の比喩的な言い回しのこと。アブローがよく使った引用符も、似たことをする。言葉や物をふだんの流れから持ち上げ、もう一度これを見よ、と言う。
美術館と店
MCA の4階、展覧会の隣に、アブローのチームが手がけたポップアップショップ「Church & State」があった。Off-White の品を売り、ブランドの回顧や、展覧会に着想を得た限定コレクションも並んだ。
展示室の隣に店を置いたのは意図的だった。見るための物と買うための物の境目がぼやかされた。アブローにとって、これは解決すべき矛盾ではなく、仕事の素材そのものだった。
パブリックプログラムも同じく幅広かった。スタイル、ストリートウェア、サステナビリティ、デザインを身近にすること、そして香りについてのトーク。若者のデザインの発表の場もあった。美術館は、自分がそこにいてよいとほとんど思わなかった人々に扉をひらいた。
アブローは2021年の終わりに亡くなった。ボストンの展覧会が閉じた二か月後だった。振り返ると、「Figures of Speech」は総まとめというより、ひらいたまま残されたノートのように読める。仕事の途中にいる人を見せている。まだ問い、まだ物を引用符でくくり、それが何を言いうるかを見ようとしている人を。