エッセイ · 嗅覚アート
処方変更。それはまだ同じ匂いか。
Reformulation. Is it still the same smell?
名は残る。中身は変わる。
なぜ処方は変わるのか
業界の外の人は、有名な香水を美術館の絵のように固定されたものと考えがちだ。実際には、毎年あらためて演奏される一曲の音楽に近い。生産のたびに、その年の素材で、処方が新たに演奏される。
処方が変わる理由は多い。法によるものがある。ある物質が禁止され、制限され、あるいはラベルへの表示が義務づけられる。供給によるものがある。不作、希少になった植物、抽出物の取り扱いをやめる供給元。費用によるものもある。そして単に、天然の素材が年ごとにけっして同一ではない、ということもある。
すべての変化が大きいわけではない。長く愛用してきた人でも気づきにくいものがある。この瓶はもう愛したあの瓶ではない、と言わせるものもある。その両端のあいだには広い野があり、誰もがそのなかの違う地点に立っている。
オークモスとアトラノール
オークモスは最も明快な例である。湿って苦く、土と樹皮に近い古典的な素材で、二つの大きな香水の系統、シプレ(Chypre)とフジェール(Fougère)の土台にある。
2017年8月2日、欧州委員会は規則2017/1410を採択し、化粧品におけるアトラノールとクロロアトラノールを禁止した。どちらもオークモスとツリーモスの抽出物に天然に含まれ、皮膚アレルギーの事例の多くの原因となるアレルゲンに数えられる。2019年8月23日以降、これらを含む製品は欧州市場に新たに出せなくなり、2021年8月23日以降は市場で提供することもできなくなった。業界の国際団体である IFRA の基準も、オークモスの抽出物に対し、それぞれの物質をごく低い上限以下に保つよう求めている。
その結果、いま使われるオークモスはアトラノールの少ないグレードでなければならず、多くの処方は苔の一部を合成のウッディ系、モス系の分子に置き換えている。変更にはもっともな理由がある。多くの人が、なじみの瓶が変わったと感じる理由でもある。
処方が変わりつづけるなら、古い処方はどこへ行くのか。ヴェルサイユに、その答えとなる場所がある。オスモテーク(Osmothèque)は、フランス調香師協会、フランス香水委員会、パリ商工会議所が共同で設立した施設で、みずからを匂いの記憶に捧げられた場所と説明している。
その仕事は、現存する香りとこれからの香りを目録にし、失われた偉大な香水の痕跡を探して、ふたたび命を与えることである。こうしたアーカイブは絵も本も保管しない。蒸発するものを保管する。だから絶えず手をかけなければならない。
Fougère Royaleの物語は、二つの道を同時に見せる。Houbigantのこの香水は、ふつう1882年とされ、合成クマリンを軸に組まれた最初期の香水のひとつだった。2010年、Houbigantは新しい処方でFougère Royaleを再発売した。ひとつの名に、アーカイブのなかの版と、棚の上の版。マウリッツハイス美術館の「Fleeting Scents in Colour」のように歴史上の匂いを再現する美術館のプロジェクトも、原本とつくり直しのあいだの同じ線の上を歩いている。
瓶のなかのテセウスの船
プルタルコス(Plutarch)によれば、アテナイの人々はテセウスの船を長いあいだ保存し、朽ちた板を新しい板に取り替えつづけた。哲学者たちは問うた。すべての板が取り替えられたとき、それはまだ元の船なのか。
処方を変えられた香水は、その船である。瓶も、名も、ラベルも同じままだ。中の成分は一つずつ取り替えられる。名を守る人は、それはまだそれ自身だと言う。古い匂いを覚えている人は、違うと言う。
Penta は、どちらかの側を選ばねばならないとは考えない。答えは、同じであることを何で測るかによるのかもしれない。名で測れば、船は元の船だ。素材で測れば、変わっている。まだ人を乗せて水を渡れるかで測れば、問いは別の方向へ開く。
ひとつ確かなことがある。どの版も、それがつくられた時の痕跡である。その年の規則、その年の収穫、その年の選択。古い瓶と新しい瓶を並べて嗅ぐことは、二つの瞬間を嗅ぐことだ。