エッセイ · 嗅覚アート

ヤナ・スターバック(Jana Sterbak)。「Vanitas: Flesh Dress for an Albino Anorectic」。

Jana Sterbak. Vanitas: Flesh Dress for an Albino Anorectic.

このドレスは流行遅れにならない。色が変わる。

ヤナ・スターバック「Vanitas: Flesh Dress for an Albino Anorectic」:乾いて黒ずんだ牛肉の薄切りでできたドレスをまとうマネキン


肉屋のカウンターから来たドレス

1987年、プラハ生まれのカナダの作家ヤナ・スターバックは一着のドレスをつくった。裁断はありふれていた。袖なしのシフトドレス、膝下丈、裾はほつれている。ありふれていないのは素材だけ。ドレスは生のフランクステーキの薄切りで縫われていた。

初めて展示されたのはモントリオールの Galerie René Blouin。ウォーカー・アート・センターの目録によれば、作品はマネキン、フランクステーキ、塩、糸、カラー写真からなる。正式な題は長く、冷たい。「Vanitas: Flesh Dress for an Albino Anorectic(ヴァニタス:白皮症の拒食症者のための肉のドレス)」。

題のそれぞれの部分が、別々の方向へ引っぱる。ヴァニタスは十七世紀ヨーロッパの静物画のジャンルで、頭蓋骨、燃え尽きかけた蝋燭、しおれる花が、すべては過ぎ去ると見る者に思い出させる。白皮症の人には色素がない。拒食症の人は食べ物を拒む。そうした身体に、まさに欠けているもの、拒んでいるものが着せられる。

スターバックは説明を加えない。ドレスは色で、形で、そして何より匂いで語る。

展示のたびに縫い直される

肉はもたない。だから「Vanitas」は固定した物ではありえない。1993年に作品を収蔵したウォーカー・アート・センターは、展示のたびにドレスをつくり直す権利をもつ。パリのポンピドゥー・センターも一点を所蔵している。

ウォーカーはその工程を記録している。ナイフと布張り用の針を持ったチームが、フランクステーキの塊を型紙に合わせて前身頃と後ろ身頃に切る。切れ端は縫い合わされる。それからドレスはおよそ60ポンドの塩に約三時間埋められ、肉が乾き、細菌が根づかないようにされる。

オープニングのとき、ドレスはまだ赤く、まだ柔らかく、まだ生肉の匂いがする。日ごとに水分を失い、縮み、黒ずむ。繊維は革のようにこわばる。最後には黒ずんだ殻になり、ドレスというより経帷子に近い。

最初の週の来場者と最後の週の来場者は、同じ作品を見ていない。同じ匂いを嗅いでもいない。

現代のヴァニタス

古典的なヴァニタス画は象徴によって働いた。頭蓋骨は死を、花は若さを表した。スターバックは象徴を飛ばし、朽ちていく物質そのものを使った。見る者は隠喩を解読する必要がない。十分に近くに立つだけでいい。

オタワのカナダ国立美術館で展示されたとき、このドレスは国中の論争を巻き起こした。食べ物の無駄だと言う者も、挑発だと言う者もいた。けれどもその居心地の悪さは作品の一部だ。きれいで清潔で匂いのないドレスなら、誰にも自分の身体について考えさせはしない。

作品は、ファッションのもっとも敏感なところにも触れる。ファッションは若さと、変わらない表面を売る。スターバックのドレスは、決して老いないマネキンに着せられ、その代わりに老いていく。ここでは衣服は身体を覆わない。衣服が身体なのだ。

最後の仕事をするのは匂いだ。肉のドレスの写真は衝撃を与えうるが、清潔だ。本物のドレスのある部屋はそうではない。二十年近く前のディーター・ロートのチーズを詰めたスーツケースのように、「Vanitas」は、目が素通りすることを覚えてしまったものを匂いに証言させる。わたしたちが着るもの、食べるもの、そしてわたしたち自身が、みな同じ方向へ向かっているということを。