エッセイ · 現代アート
ジェフ・クーンズ(Jeff Koons)。「Puppy」。
Jeff Koons. Puppy.
いまも育っているモニュメント。
Guggenheim Museum Bilbao · Guggenheim Museum Bilbao
戸口の犬
「Puppy」はスペイン、グッゲンハイム・ビルバオ美術館の前の広場に立つ。ウエスト・ハイランド・テリアが背筋を伸ばして座る。高さ12.4メートル。美術館はこれを番犬と呼び、世界最大の花の彫刻として紹介している。
1955年ペンシルベニア州ヨーク生まれのジェフ・クーンズは、1992年に「Puppy」をつくった。コレクションの記録が挙げる素材は三つだけだ。ステンレス鋼、土、花の咲く植物。鋼が形を与える。土が根を抱える。植物が毛皮のように表面を覆う。
足もとに立つと、犬の全体は見えない。見えるのは花だけ。広場を歩いて戻って、ようやく座って待つ子犬だとわかる。
18世紀の庭園からコンピュータへ
クーンズは1980年代半ば、メディアに飽和した時代に芸術とは何かを問う作家たちのなかで頭角を現した。広告、マーケティング、娯楽の言語を借り、作品を、通常の趣味の序列の外にある商品として扱った。
「Puppy」で、彼は両方向を同時に見た。形をつくるのに高度なコンピュータ・モデリングを使った。そして、植物が幾何学に刈り込まれ、自然が人の意志で整えられた18世紀ヨーロッパの整形庭園を参照した。
ビルバオの美術館は、「Puppy」が束ねるものを挙げている。トピアリーと犬の品種改良、草の芽吹く陶製のペットと印刷されたグリーティングカード。ハイカルチャーと大衆文化が並んで座る。どちらも嘲笑されない。
どこまで甘いと甘すぎるのか
美術館は、「Puppy」が存在するなかで最も甘ったるいイメージ、花と子犬を使って、感情へのモニュメントを築いていると書く。クーンズはこの公共の作品が人を引き寄せつづけ、楽観を生み、彼の言葉では、見る者に自信と安心を与えることを望んだ。
それに苦笑するのはたやすい。花で覆われた巨大な子犬は、芸術よりも絵葉書に近い。それでも人はそこに立ち、写真を撮り、うれしくなる。作品は同意を必要としない。反応を必要とする。
美術館は「Puppy」を現代文化の寓意として読む。何もかもがかわいく、手軽で、愛らしくあることを望み、型どおりに感情を生産する文化。クーンズはそれを外から批判しない。私たちが見ざるをえなくなるまで、大きくする。
いまも育っている
「Puppy」をふつうの像と分けるのは、それが生きていることだ。美術館はその大きさを、きっちり抑えられていながら制御を失っているようにも見える、と表現する。文字どおりにも比喩的にも、それはいまも育っている。
植物は図面に従わない。違う速さで育つ。ここは厚く、あそこはまばら。咲く花もあれば、色あせる花もある。犬の形は鋼が保つ。その毛並みは、日と雨と世話をする手によって移ろう。
だから「Puppy」を二度訪ねて同じということはない。ある年とその翌年にビルバオへ来た人は、同じ犬に会うが、同じ毛並みには会わない。作品はコンピュータの上で一度完成し、屋外で毎日つくり直される。
これは芸術における花を考える、もうひとつのやり方だ。アーニャ・ガラッチオの「preserve 'beauty'」は、ガラスの向こうで花をしおれさせる。クーンズは季節ごとに花を咲かせつづける。一方は花を最後まで見届ける。もう一方は、手入れを決してやめないことで花をそこにとどめる。