エッセイ · 嗅覚アート
リンジー・フレンチ(lindsey french)、アレックス・ヤング(Alex Young)「Scent Poems for Pipeline Plants」
lindsey french, Alex Young. Scent Poems for Pipeline Plants.
植物もまた、匂いで語る。
© lindsey french & Alex Young · Scent Poems for Pipeline Plants(プロジェクトサイト)
パイプライン沿いの36の立ち寄り地
Line 3 は原油のパイプラインで、アルバータ州エドモントンから国境を越えて米国に入り、ウィスコンシン州スーペリアまで続く。長さは1,000マイルを超える。その再建には広く反対の声があがった。とりわけ、ルート沿いに土地と水を持つ先住民の共同体から。
作家のリンジー・フレンチとアレックス・ヤングはそのルートをたどった。36か所に立ち寄り、それぞれの場所で、掘り返された地面に育つ植物のために香りの詩を残した。
どの立ち寄り地でも同じ手順を踏んだ。詩を置く。二つの陶の器とともにその場所を撮る。一つは赤い土器、一つは淡い黄褐色の炻器。道ばたの漂着物を集める。記録をとる。近くにどんな植物が育っていたか、どんな匂い、どんな音、どんな虫がいたか。そして道中で出会った人々との会話の断片。
旅は長いフィールドノートになった。パイプラインについてではなく、その傍らに生きるものについての。
植物の言葉で書かれた詩
このプロジェクトでいう香りの詩とは、植物が信号に使う化合物を溶かし込んだオイルである。植物に声はない。けれど揮発性有機化合物を通して、互いに、また虫たちと交信している。かじられた葉は、隣の株に防御の準備をするよう告げる匂いを放つことがある。
オイルは作家自身がつくった陶の器に収められている。どの器にも、日の光を集めて中のオイルを温めるレンズがついている。温まるにつれ、香りが立ちのぼる。太陽が詩を朗読する。
このプロジェクトは、空気中の二種類の化学を並べて置く。一方には、植物がとても長いあいだ使ってきた信号。もう一方には、石油産業が空気中に放つ揮発性の化合物。どちらも見えない。どちらも情報を運ぶ。一方は言葉で、もう一方は雑音だ。
植物がこれらの詩を受け取っているのかどうか、確かなことは誰にもわからない。作家たちもそうは主張しない。このプロジェクトは反応を測る実験ではない。ひとつの身振りである。人が地面を傷つけたばかりのまさにその場所で、別の種にその種自身の言葉で語りかけようとする試み。
詩には言葉がない。通りすがりの人は何も読まない。けれど掘り返された土の上に生え直す植物にとって、それは最初の挨拶なのかもしれない。
屋内に持ち込まれた三つの場所
2023年5月6日から9日まで、プロジェクトの一部がモントリオールのコンコルディア大学で開かれた会議 Uncommon Senses IV の Multisensory Art Gallery で展示された。36か所のうち、作家たちは3か所を選んだ。
サイト1はパイプラインの起点、エドモントン。サイト31はキャス・レイク、入植者の土地と条約の土地の境にある。サイト35はスーペリア、パイプが地上にはっきりと姿を現す場所。
それぞれの場所のために香りがつくられ、陶に収められた。器は、分解した香水アトマイザーの部屋を模してデザインされている。来場者はゴムの球を握って香りを押し出した。写真の傍らで、彼らは数千キロ離れた場所の前に立ち、その匂いを嗅いだ。
このプロジェクトは、香りを用いた実験的な作品に贈られる2024年のサダキチ賞(Sadakichi Award)の最終候補となった。共有された空気を問う嗅覚アートの系譜に連なる作品である。たとえばピーター・デ・クーペレの「Air Polluter」のように。けれどここで語りかけられているのは人ではない。植物である。